土方洋(ヒジカタヒロシ)ニックネームのターナーです。
ボクは恵比寿で営業支援スーツというオーダーメイドスーツの仕立屋をしています。
オーダー業界ではすでに秋冬素材が目白押しになっています。
季節の変わり目に向けてスーツを新調したいかなとお考えの時に、最初に悩むのが生地選びですね。
そして一番楽しい時でもあります。
ということで、今日は秋冬にしかみられない生地の特徴の一つをご紹介ます。
それが今日のタイトルである表面と裏面の色が違う生地のこと。
これをメランジと言います。
夏物素材ではあまり見かけない素材ですね。
まずはどんな生地なのかを画像で見てみましょう。
これをメランジと言って一般的には秋冬素材にしかみられない生地になります。
広義の意味ではメランジ素材は夏物生地にもあるのですが、今回は表面と裏面の色が違うという素材について少し突っ込んだご紹介をしていきましょう。
- 霜降り杢は全部メランジと呼びます
メランジというのは、大きなくくりでは杢糸使いの生地という意味になります。
杢というのはまだら模様に見える糸のことですね。
ちょっと専門的に言うと染色課程が普通の糸と違って、スライバー(羊さんから刈り取ったわだわた菓子みたいな状態)の時に染め上げます。
その染めたスライバー状態で紡績(撚り上げて糸にする)と杢や霜降り杢というムラのある糸になり、その糸で織り上げればまだら模様の生地になります。
それらを総称する用語として業界ではメランジと言います。
ま、そんな事は大した問題ではなくて、この表と裏が違って見える生地のことに戻りましょう。
この生地はいわゆる杢糸を使った生地ではありません。
何故ならまだら模様ではないでしょう?
この生地の場合は先染め糸を使った織物ということになります。
これもちょっとだけ専門的になりますが、紡績して糸にした状態で染める方法もあってそれを先染め糸と言います。
その糸で織り上げるとまだら模様にならずに発色やツヤのある織物になります。
もうちょっと追記すると後染めという織物もあります。
これはすっぴんのままの糸で織り上げた後に染めるという方法で、ベタ染ともいって、一番シンプルに染まります。
話を戻しましょうか。
この先染め糸を使って縦糸と緯糸を別々の色にする。
その縦糸や緯糸も微妙に違う糸を張り巡らせると、光の当たり加減で様々な表情に見える艶やかな生地になるわけです。
- 艶のポイントは綾織
通常このような艶のある織物にする為には綾織と呼ばれる織り方に必要があります。
織り組織に関しては、夏物は通気性重視な分ツヤが出にくい平織、秋冬物は織密度を高める事が出来る分表面に光沢が出やすい綾織が一般的になります。
なので夏物には構造上この表裏が違って見える素材は存在しないのです。
今回はもうちょっと深く掘り下げてみましょうか。
この綾織という織り方も組織の構造上は同じでも微妙に違う織り方があります。
サキソニー、ツイード、ギャバジン、カルゼやツイルなどなど色々な呼び名があります。
どれも構造上では綾織なのですがその使う糸や織り目の出方で違った表情を見せるのです。
その綾織組織の一つにサージと呼ばれる織物があります。
正直ぱっと見はギャバと見分けは付きにくい織物ですが、実は微妙に変化させている織物になります。
生地の表面は経糸の方が多めに見えるように織り上げています。
緯糸は控えめに見えるようになっています。
比率としては6:4か7:3位の比率でしょうか。
そうするとどうなるかというと?
裏面はその逆になりますから、緯糸の方が多く見えるようになります。
その時に経糸と緯糸の色を変えていると、当然別の色味に見えるというわけですね。
しかも微妙に色の違いを縦緯に使っているから艶やかな表面になるというわけです。
裏面は基本見えないけれど、その表面を最大限綺麗にするためにこういう手間をかけているってことです。
似て異なる表裏の違う織物にダブルフェイスという生地があります。
これは純粋に表裏が全く別になるように織り上げる構造になっていまして、もっと肉厚なコートなどの冬素材になります。
近年は非常にコストがかかるので安価に接着させるなんて生地もありますけどね。
いかがでしたでしょうか。
何気なく膨大な生地コレクションをペラペラめくっているその一枚の生地にはものすごい情熱を持って作り上げてきた先人たちの知恵と近代織物のテクノロジーの結晶が形になっているんですよ。
こんなドラマを考察しながら生地選びをしてみると益々スーツをオーダーするのが楽しくなるでしょう。
ご参考になれば幸いです。
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